ECS研究所

ハラスメントの内容、方針等の明確化と周知・啓発について

お問い合わせはこちら

ハラスメントの内容、方針等の明確化と周知・啓発について

ハラスメントの内容、方針等の明確化と周知・啓発について

2022/09/14

先週まで6回にわたり、パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、マタニティハラスメントについて解説してきました。職場におけるハラスメントを防止するためには、それぞれのハラスメントの内容を理解し、事業者がハラスメントを行ってはならないという明確な方針を示し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発することが必要です。
今週より、各種ハラスメントを振り返りながら、事業者が講じなければならない措置や防止対策について紹介していきます。

 

周知・啓発の取組例
■就業規則等を定めた文書に、事業主の方針を規定し労働者に周知・啓発する。
■社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に記載し配付する。
■労働者に対して周知・啓発するための研修、講習等を実施すること。
■妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントへの対応を行う場合事業主の方針と併せて制度等が利用できる旨を周知・啓発する。


1.パワーハラスメント

 

”パワハラ”という言葉は、上司から部下へのいじめ・嫌がらせを差して使われる場合が多いですが、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して行われるものもあります。「業務上の指導との線引きが難しい」との指摘もありますが、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導についてはパワーハラスメントにあたらないことになります。

 

<職場におけるパワーハラスメントの3要素>
職場において行われる
①優越的な関係を背景とした言動により、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもので、
③労働者の就業環境が害されるもの

であり、①から③までの要素を全て満たすものをいいます。

 

職場におけるパワーハラスメントの言動6類型

 

①身体的な侵害
<該当すると考えられる例>
・殴打、足蹴り
・相手に物を投げつける

 

②精神的な侵害
<該当すると考えられる例>
・人格を否定するような言動
・業務の遂行に関する必要以上に長時間の厳しい叱責や、他の労働者の面前で、大声での威圧的な叱責を繰り返し行う
・相手の能力を否定し罵倒する内容のメールなどを、相手を含む複数の労働者に送信

 

③人間関係からの切り離し
<該当すると考えられる例>
・意に沿わない労働者に対して、業務から外し、長期間にわたり別室に隔離したり、自宅研修させたりする
・一人の労働者に対して、同僚が集団で無視をし、孤立させる

 

④過大な要求
<該当すると考えられる例>
・長期間にわたり、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下で、勤務に直接関係のない作業を命じる
・新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する
・労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制する

 

⑤過小な要求
<該当すると考えられる例>
・管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる
・気に入らない労働者に対して、嫌がらせのために仕事を与えない

 

⑥個の侵害
<該当すると考えられる例>
・労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をする
・労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療などの機微な個人情報について了解を得ずに他の労働者に公開する

 

パワーハラスメント対策にあたり


パワーハラスメントの発生の原因や背景には、労働者同士のコミュニケーションの希薄化などの職場環境の問題もあると考えられます。このためこれらを幅広く解消していくことも、職場におけるパワーハラスメントの防止効果を高める上では重要です。

 


2.セクシュアルハラスメント


「セクハラ」とは、セクシュアルハラスメントの略で、『性的な嫌がらせ』のことをいいます。2020年6月、パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)の施行と合わせて、男女雇用機会均等法のセクハラ防止対策が強化されました。

 

<職場におけるセクシュアルハラスメントの定義>


①「職場」で「労働者」の意に反する「性的な言動」が行われること。
② また、それを拒否したり抵抗したことで、解雇や降格、減給など労働条件について不利益を受けること。
③「性的な言動」により職場の環境が悪くなり、働く人が能力を十分に発揮出来ないなどの悪影響が生じること。

 

職場におけるセクシュアルハラスメント 2つのタイプ


「対価型」
「環境型」

 

「対価型セクシュアルハラスメント」とは


労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外、客観的に見て不利益な配置転換などの不利益を受けることです。


●典型的な例
・事務所内で事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、その労働者を解雇。
・出張中の車中で上司が労働者の腰、胸などに触ったが、抵抗されたためその労働者について不利益な配置転換をする。
・営業所内において事業主が日頃から労働者に係る性的な事柄について公然と発言していたが、抗議されたため、その労働者を降格する。

 

「環境型セクシュアルハラスメント」とは


労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどその労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることです。


●典型的な例
・事務所内で上司が労働者の腰、胸などに度々触ったため、その労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下していること。
・同僚が取引先において労働者に係る性的な内容の情報を意図的・継続的に流したため、その労働者が苦痛に感じて仕事が手につかないこと。
・労働者が抗議をしているにもかかわらず、同僚が業務に使用するパソコンでアダルトサイトを閲覧しているため、それを見た労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと

 

セクシャルハラスメント対策にあたり


●セクシュアルハラスメントの内容には、異性に対するものだけではなく、同性に対するものも含まれます。


●また、被害を受ける者の性的指向や性自認にかかわらず、性的な言動であればセクシュアルハラスメントに該当します。


●性別役割分担意識に基づく言動は、「ハラスメントの発生の原因や背景」となり得ますので、このような言動をなくしていくことがセクシュアルハラスメントの防止の効果を高める上で重要です。


●性別役割分担意識に基づく言動の例としては、以下が考えられます。
①「男のくせに根性がない」、「女には仕事を任せられない」などと発言する。
②酒席で、上司の側に座席を指定したり、お酌等を強要する。性別役割分担意識に基づく言動そのものがセクシュアルハラスメントに該当するわけではありませんが、セクシュアルハラスメントの発生の原因や背景となり得るため、こうした言動も含めてなくしていく必要があります。


3.マタニティハラスメントとは


職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントのことで、「職場」において行われる上司・同僚からの言動、妊娠・出産したこと、または育児休業等の利用に関する言動により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児休業等を申出・取得した「男女労働者」の就業環境が害されることをいいます。

 

<マタニティハラスメントの2類型>

① 制度等の利用への嫌がらせ型
② 状態への嫌がらせ型

 

① 制度等の利用への嫌がらせ型

 

(1) 妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置や、産前休業、軽易な業務への転換などの請求等をしたこと、または制度等の利用をしたことにより就業環境が害される場合

 

●典型的な例
・産前休業の取得を上司に相談したところ、「休みを取るなら辞めてもらう」と言われた。
・時間外労働の免除について上司に相談したところ、「次の査定の際は昇進しないと思え」と言われた。

 

(2) 育児休業(産後パパ育休を含む)及び子の看護休暇や、育児のための所定労働時間の短縮措置、時間外労働の制限、などの請求等をしたこと、または制度等の利用をしたことにより就業環境が害される場合

 

●典型的な例
・育児休業の取得について上司に相談したところ、「男のくせに育児休業を取るなんてあり得ない」と言われ、取得をあきらめざるを得ない。
・産後パパ育休の取得を希望すると、同僚から「迷惑だ。自分なら取得しない。あなたもそうすべき」と言われ苦痛に感じた。

 

(3) 制度等を利用したことにより嫌がらせ等を受ける

 

●典型的な例
・上司・同僚が「所定外労働の制限をしている人にはたいした仕事はさせられない」と繰り返し又は継続的に言い、専ら雑務のみさせられる状況となっており、就業する上で看過できない程度の支障が生じている。
・上司・同僚が「自分だけ短時間勤務をしているなんて周りを考えていない。迷惑だ。」と繰り返し又は継続的に言い、就業をする上で看過できない程度の支障が生じている。

 

② 状態への嫌がらせ型


女性労働者が妊娠したこと、出産したこと等に関する言動により就業環境が害されるものをいいます。

 

●典型的な例
・上司に妊娠を報告したところ「他の人を雇うので早めに辞めてもらうしかない」と言われた。
・上司・同僚が「妊婦はいつ休むかわからないから仕事は任せられない」と繰り返し又は継続的に言い、仕事をさせない状況となっており、就業をする上で看過できない程度の支障が生じている。
・上司・同僚が「妊娠するなら忙しい時期を避けるべきだった」と繰り返し又は継続的に言い、就業をする上で看過できない程度の支障が生じている。

 

マタニティハラスメント対策にあたり


●他の女性労働者の妊娠・出産等の否定につながる言動や制度等の利用否定につながる言動で、当人に直接言わない場合も含みます。また制度等の利用や請求をしにくい職場風土や、制度の利用ができることについて職場内での周知が不十分であることも問題です。制度等を利用する本人だけでなく全従業員に理解を深めてもらうとともに、利用や請求をしやすくするような工夫も必要です。


●妊娠・出産・育児休業等に関する否定的な言動は、本人に直接行われない場合も含まれます。例えば、夫婦が同じ会社に勤務している場合に、育児休業を取得する本人ではなく、その配偶者に対して否定的な言動を行うことは、ハラスメントの発生の原因や背景になり得る行為です。

 

 

次週は引き続き、各種ハラスメントについて事業者が講じなければならない措置や防止対策について紹介していきます。

当店でご利用いただける電子決済のご案内

下記よりお選びいただけます。